#デザイン #Kansei #数学的原理

Lab Data

 名称:東京大学設計工学研究室 (柳澤研究室)
 PI:柳澤秀吉 (大学院工学系研究科 機械工学専攻 准教授)
 所在地:本郷キャンパス工学部2号館
 HP:https://www.design.t.u-tokyo.ac.jp/

Prologue

 かつてニュートンは、数多の法則や定理を統一的に記述する運動方程式の発見により、物理現象を数学的モデルとして扱う道を切り拓いた。
これを物理現象の数学的原理(プリンキピア)の発見と呼ぶならば、人間の知覚や感覚、感情、意味、そういったもの全てを含む「感性」にも、プリンキピアはあるのだろうか。

 柳澤研究室では、感性の数理モデル化、そしてそれを設計に活かす研究を行なっている。
まるで17世紀のように、発見と発展の機会を秘めている感性工学の分野において、日本は世界を主導する立場だ。英語でも "Kansei" と表現されるほど、広く捉えにくい概念である感性。情報理論、心理学、哲学、力学、脳科学、様々な分野の知識や考え方を総動員してその姿を追い求めた先には、どのような設計、デザインが待っているのだろうか

Interview with Prof. Yanagisawa

感性設計とはどのようなものですか?

 従来の設計は、目的の物理現象を引き起こすような構造を、数理的手法を用いて計画するというものです。例えばドライヤーでいえば、どのようなモーターやファンをどのような構造で組み立てれば、どのような風が出るのかという物理現象を、事前に予測して設計していく訳です。

 一方感性設計はそれを、人間の感覚や知覚、更には引き起こされる感情や意味にまで拡張します。そのためには、構造挙動と物理現象の架け橋である力学のように、心理状態と物理現象の架け橋となるものが必要です。僕らはそれを、数理モデルの形で記述したい。どのような物理現象が、どのような心理状態を引き起こすのか、事前に予測できるようにしたいのです。

具体的にどのような研究がなされているのでしょうか

 たとえばこの二つの重り、一つずつ持ってみてください。(取材者:小さいものと大きいものを持ち上げる。小さいものの方が重く感じる)測ってみてください。
小さいものの方が重く感じたと思うのですが、実はこの二つの重り、重さは一緒なんです。ここでは、視覚情報が重さの知覚に影響を与えるということが起きています。このように、五感が互いに影響しあうことをクロスモーダル現象と呼びます。例えば何かを軽量化したいというとき、実際に何グラム軽量化出来るかが重要なのか、使う人の感じる重さを減らすことが重要なのか。後者の価値を目指すならば、人間の諸感覚と実際の重さの間にどのような関係があるかを理解することが大切なわけです。

他にも様々なクロスモーダルの研究がありますし、美しさの定義に関する研究や、人間に安心感を与えるロボットの挙動に関する研究など、各自が幅広い研究をしています。

実験に使った重り
(二本指で上部を摘まむと小さい方が重く感じられた)

研究内容の例

研究体制については、コロナ禍の前後で変化したのでしょうか。

 かなり変化はしましたが、悪いことばかりではありませんでした。毎週の研究室の集まりなどは当然オンラインになりましたが、それを期に導入したツールによって、学生間の意見のやり取りなどが活発になったりもしました。俗に言うDXですね。この四月からは対面活動も戻ってきていますが、オンラインのよかった点は敢えて戻さず、ハイブリッドな状態で運営しています。

今年の五月祭テーマ『汽祭域』に関連して、異なる分野を超越することの意義や可能性についてどうお考えですか。

 僕の研究テーマはまさにそれですね。そもそも研究というのは何もないところから作り上げるものではなくて。巨人の肩の上に立つ、というように、様々な過去の研究の上に成り立つものです。僕の場合はそれが、熱力学だった。
感性の数理モデル化において重要な、自由エネルギー最小化原理というのは、もともと熱力学の用語であるヘルムホルツの自由エネルギーに端を発しています。
このエネルギーが、まず情報の分野で「情報量」を表す量として用いられ、更には生物学の分野において、あらゆる生物がこの自由エネルギーを最小にするような動きをすることが分かってきた訳です。

 表層では全く異なる分野、知識でも、根源の底まで潜れば共通性があったりする。
潜った底で見つけた何かを別の分野に活かしてみたら、それが新たな発見がつながるかもしれないということですね。

今後進路を考えていく1・2年生に向けてメッセージをお願いします。

 研究室のPRでもいいでしょうか。(笑)
感性というのは、実は英語でもKanseiなんです。多くの学問は西洋から入ってきたものですが、感性というのは日本から世界に発信している数少ない分野といえます。こういった研究室はあまり多くなくて、「ここでしかできない研究」だと自負しています。ハーバードやMITじゃなくて、「東大に来てよかった」と思えるような場所。この場に来て、五感で感じ取ってもらって、知性と感性を総動員して輝ける場所が、ここにあります。是非楽しみにしていてください。

柳澤先生、ありがとうございました!

Voices of students

修士課程1年の本多詩聞さんに、柳澤研についてお話を伺いました。

研究室の雰囲気はどんな感じですか。

 とても自由で、学生間や先生との交流の活発な研究室です。
毎週の定例ミーティングや毎週木曜のティータイム、日々の雑談の中で刺激を受けることが多くあります。感性に関する同じ原理を用いていても、活かし方が全く異なる人の話を聞いて、新たな知見を得るようなこともあります。
 柳澤先生はとても面倒見がよく、学生とも徹底的に議論をして下さる方です。研究以外のことでも親身に相談に乗ってくださりますし、気さくで親しみやすい方です。

本多さんの研究室生活を大公開!

研究室生活における1日のスケジュール例

どうして柳澤研究室に入ったんですか?

 元々車が好きで機械系に来たんです。でも後から、エンジンとかの内部構造よりも、車のデザインの方に興味があることが分かって。お客さんの目に一番触れる部分なので。あ、これ間違えたかな、意匠やりたいなら美大行くべきだったかな、と感じていた時に、設計研の存在を知りました。
僕にとっては、唯一の受け皿という感じでしたね。設計研なら、機械の設計も当然できますし、見た目のデザインに関する研究も出来る。今は美しさの評価と、美しいデザインを生成する手法に関して研究しています。

この研究室に興味のある学生へメッセージ

 設計研は、根幹の技術さえ同じであれば、その応用先がかなり自由な研究室です。
車でも音楽でも、学生の興味のある分野で研究が進められますし、同じ研究室に様々な研究テーマの人がいることで、良い刺激も沢山受けられます。
僕が言うのもなんですが、とてもいい研究室なので、是非見学に来てみてください。

Epilogue

 感性のプリンキピアを探し、そしてそれを設計に活かす。
柳澤研究室は、感性工学、感性設計という未踏の分野を切り拓き、従来とは異なる新たなデザインに挑んでいる。

取材日:2022年4月21日
インタビュー・文責:中島眞由
撮影・サポート:小宮 晨一

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