#バイオハイブリッド #生物機械 #培養肉

Lab Data

 名称:東京大学竹内昌治研究室 (バイオハイブリッドシステム研究室)
 PI:竹内昌治 (大学院情報理工学研究科 知能機械情報学専攻 教授)
 所在地:本郷キャンパス工学部2号館 8階 83D1
 HP:http://www.hybrid.t.u-tokyo.ac.jp/

Movie

Prologue

 人工物だけでは実現できなかったことも、生物の力を借りることで実現可能になる。例えば、細胞のように自己増殖や自己修復をおこなうシステム、脳や筋肉のようにエネルギー効率が非常に高いシステムなど。これらを実現すべく、竹内研究室では生物と機械を融合したシステム、すなわち「バイオハイブリッドシステム」に関わる研究を行っている。

 バイオハイブリッドシステムを作るうえで重要となるのは、機械とうまく組み合わせることのできる生物のパーツを作ること。竹内研究室では、機械を作る「従来のものづくり」を飛び出して、生物の細胞を使って三次元構造を作ったり制御したりする「新しいものづくり」に挑戦している。

研究室内には、マイクロピペットやシャーレなどがならぶ。
細胞を積層するための3Dプリンターも(右下)。

Interview with Prof. Takeuchi

バイオハイブリッドシステムというと、具体的には...

 バイオハイブリッドシステムのアプローチは、大きく分けて「センサ」「アクチュエータ」「リアクタ」「プロセッサ」の4種類があるんですね。 「センサ」は計測機器のことで、例えば、犬の鼻のように超高感度で匂いを感知する細胞を機械と組み合わせて、犬の鼻と同じようなセンシングを可能にする。 「アクチュエータ」は駆動装置のことで、例えば、筋肉の細胞を筋繊維のように並べて、大きな筋肉を作ってロボットに組み込むと、そのアクチュエータとして働くんです。ロボットのアクチュエータは、空気圧とか、電磁モータとか、いろいろなものが使われているんだけど、どれも結構大きいし、動くときにかなり音が出る。一方で、僕らの筋肉はものすごく滑らかにフレキシブルに動くし、音が出ないですよね。そこで、筋肉そのものを使ったアクチュエータができれば、静かに動くのでエネルギー効率が非常に高くなる。 「リアクタ」というのは化学反応器のことで、体の中の化学反応を再現するような小さなチップを、生物のパーツを用いた三次元組織を作ることで実現する。 「プロセッサ」は、まさに脳です。神経細胞をたくさん取ってきて、人工的にネットワークを組むと、それが将来的に学習に使えたり、記憶に使えたりする。そうすると、非常にエネルギー効率の高い脳型コンピューティングができるようになるんじゃないかと。バイオハイブリッドシステムは、これら4つのように様々なアプローチで役に立つんです。

バイオハイブリッドシステムを語る竹内教授

竹内教授は培養肉の研究も行っていますよね。

 生物を使ったものづくりを進めていた時に、筋肉って(上述の)アクチュエータ以外にも使えるんじゃないかと。牛の筋肉の細胞を取ってきて、培養して大きな筋肉を作ったら、それはビーフステーキですよね。そういうステーキができると、動物には優しいし、あるいは環境にも優しい。このような第三のお肉というのができるだろうということで、培養肉の研究を展開しています。バイオハイブリッドシステムの研究ということでものづくりをやってきたけれど、その中の一つの出口として培養肉にたどり着いたんです。

 培養肉には、バイオハイブリッドシステムとは別の意義があります。例えば30年後に人口が30億人増えて、全員が肉を食べるとなると、お肉の供給が追い付かない時代になってくる。そうすると、「ベジタリアンになればいい」とか、「昆虫を食べればいい」とか、いろんな選択肢があるんだけれども、その一つに「肉を食べ続けたい」という選択肢があるとすれば、天然の肉が食べられなくなったときに細胞で作ったお肉が必要になってくる。

 「畜産を増やせばいい」という意見もあるけれど、そうなると、環境負荷の問題と隣り合わせになります。例えば、1キログラムのお肉を作るときに水は約2万リットル必要だし、飼料となる穀物は約25キログラム必要なんですよ。あとは土地も必要だし、糞尿やメタンガスも出てくる。地球の温室効果ガスは、14〜18パーセントくらいは畜産によるものだともいわれているんですね。そのくらい、畜産は環境負荷が高い。 あとは安全性の問題で、家畜を飼うことは感染症と隣り合わせになる。抗生物質を打てばいいのですが、打てば打つほどその耐性菌が出てきて、パンデミックにもつながる。 最後は動物福祉ですね。動物にとっていかに優しい食文化を提供するかということ。特に、フードロスの問題というのも結構重要で、1年間に殺されて食べられずに捨てられるお肉は、換算するとおよそ牛7500万頭分なんです。もちろん、現在、畜産分野で、これらの環境負荷をどのように低減するか研究が盛んに行われていますし、国家プロジェクトも立ち上がっています。いづれにせよ、こういった問題を僕らの世代で解決しなければいけないだろうということから、今は世界中で培養肉も含めた代替肉の研究も盛んにおこなわれるようになってきています。

そんな培養肉研究の「今」を教えてください。

 僕たちは、数年後に100グラムのステーキを作ることを目指しています。現在は、まだ厚さ約1ミリのカルビサイズのお肉ですが、最近それをやっと日本で食べることができるようになりました。 なぜ今までは食べられなかったかというと、今までは食品ではない、医薬品を用いて作られたものだったから、食べても安全かどうかは確認されていなかった。そこで、材料をすべて食材に変えたんです。 もう一つは制度上の問題があって、大学で作った培養肉を僕が食べて評価しようとすると、それは「ヒトを対象とした実験」になる。そうすると研究倫理申請が必要になる。これをクリアするための準備が長々と進められていたんですね。そして、2021年11月18日にやっと倫理申請が通りまして、培養肉が食べられるようになったと※。
 ※:2022年3月31日にプレスリリース。リンクはこちら

研究室のスペースには、肉のクッション「ニクッション」も。

研究体制については、コロナ禍の前後で変化したのでしょうか。

 やっぱり変えざるを得なかったですね。コロナ禍以前の研究室はいつ行っても研究員がいて、結構混みあっていたんです。しかし、コロナ禍では混んではいけないですよね。そこで、人数制限をしながらローテーションするようになった。そうすると、集中して研究できる時間というのが少なくなってきた。一方で、とりあえず来て何をするか考えるのではなくて、学校にいられる短い時間の中で何をするか事前に予定を立てるようになり、効率的に研究が進んでいるというのはあるかもしれません。

 あとはコミュニケーションですね。今までは週に1回対面でコミュニケーションをやっていたんだけれど、コロナでできなくなって全部Zoomになりました。Zoomだと、確かに情報の交換はできて、視覚・聴覚は生きている。しかし、嗅覚や触覚は使えないので、研究がリアルタイムに理解できるかなどが問題でした。あとは、一般的に言えることなんだけれども、Zoomだと1つのトピックについてしか話せない。でも、対面だと無駄口とかひそひそ話ができて、ここからいろんなアイデアが出てくる。それが無くなるというのはちょっと寂しいですよね。今後また対面に戻ってきて、いろんなディスカッションができればいいなと思っています。

今年の五月祭テーマ『汽祭域』に関連して、まさに竹内教授が行っているバイオハイブリッドシステムの研究のように、異なる分野を超越することの意義や可能性についてどうお考えですか。

 僕らの研究室の方針は「異分野融合型研究室」なんですね。それは、ある問題を解くのにいろんな分野の人たちが集まる方が解決策が見つけやすいだろうと思っているからです。では、そのやり方が研究において全てかというと、そんなことはなくて。例えば、本当に専門性のある人たちだけを集めて深く議論したほうがノーベル賞に近い研究ができるかもしれない。しかし、ゴミ問題やエネルギー問題、健康長寿社会の実現などの「答えのない問題」は、1つの分野では考えることができない。その時に、異分野が融合して答えを導き出すっていうのは非常に重要であると。

 ただ、僕らが本当に目指しているのは、何の目的もなく異分野の人が集まって、とにかくディスカッションして、みんながやりたいことをやりたいだけやることです。そうすると様々な面白い結果がふつふつと出てくるはずなんですね。全く今まで出会わなかった二つの分野がお互い出会うことによって、どちらの分野も全然難しいことをしないんだけれど、出てきたアイデアが世界が変わるような新鮮なものだったりするわけです。そういうアイデアを見つけたときの喜びっていうのが、異分野融合の醍醐味かなと。そういう芽をどんどん伸ばすことによって、それが結局は、今まで全然解けなかった大きな問題の解決策になる。お互い楽しく、仲良く話している中で、世界を変えるようなアイデアが出てくる、それが異分野融合型の研究室ということで、僕は「Think Hybrid.」っていうのを研究室のロゴマークにしているんです。

研究室には、至る所に「Think Hybrid.」のロゴが。

いま、学部1・2年生は対面とオンラインの”ハイブリッド”で学生生活を送っています。そんな1・2年生に向けてメッセージをお願いします。

 東京大学の1・2年生のいいところっていうのは教養課程で、これから2年間自由に考えて、進学選択で学科を選ぶことができる。ただ、その2年間の中でも、「ひょっとして僕はこの学科に来るべきだったのか」とか、ちょっと迷いながら進路を選択する場合ってあると思うんですよ。そのときに、「自分の選択は絶対に間違ってなくて、どっちに行っても自分は必ず幸せになる」という自信をもって進路を選択してもらいたいと思っています。
 例えば、理学部に行った人が将来的に工学部のことをやることもあるだろうし、その逆だってあるんです。別にそれはその時考えて、さらに進路を選択すればいいだけの話です。まず自分が行ったところで、しっかりと吸収できる知識は吸収して自分のものにする。そうすることで、次にどこにでも行けるような人材になると思っています。是非、自分の進路を信じて、「どこに行っても幸せになる」と思って進路選択をしていただけたらと思います。

竹内先生、ありがとうございました!

Voices of students

修士課程2年の福島皓平さんに、竹内研についてお話を伺いました。

研究室の雰囲気はどんな感じですか。

 かなり和気藹々とした雰囲気ですね。結構話しやすかったり、先生方が多く、先生と仲良くなっている学生が多かったりしますね。

福島さんの研究室生活を大公開!

研究室生活における1日のスケジュール例

将来の進路は?

 僕はもう就活が終わっています。研究室では細胞を培養したりしていたんですけど、就職先の内容とはあまり関係なくて、ソフトウェア系のところです。学生の就職先は、基本的にはソフトウェア関係が多いんですけど、その中でもヘルスケア寄りだったりも多いです。研究と就職先は別で考えている人が多いですね。

この研究室に興味のある学生へメッセージ

 機械系に入る方は、これから機械のことやソフトウェアのことばかりをやっていくことになると思います。研究室でもその分野をやるとなると、本当にその分野だけしかわからない人間になってしまう。だから、もし機械系の分野から一歩離れて別の視点を得たいとか、いろんなことをやりたいなら、研究の時にはバイオ寄りに行くとか、別のことをやってみるのがいいんじゃないかなと思います。僕はその考えでこの研究室を選んだので、参考になればと思います。

福島さん、ありがとうございました!

Epilogue

 生物と機械を融合させた「バイオハイブリッドシステム」を、どうやって作るのか、どうやって使うのか、どう応用するのか。竹内研究室は、そんな生物を使った次世代のものづくりに挑み続けている。◆

取材日:2022年4月1日
インタビュー・文責:岡本優真
撮影・サポート:横井総太朗、古森心

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