#バイオマイクロシステム #マイクロ・ナノ機械工学 #1細胞解析デバイス

Lab Data

 名称:東京大学大学院工学系研究科 機械工学専攻 小穴研究室
 PI:小穴 英廣 (大学院工学系研究科 機械工学専攻 准教授)
 所在地:本郷キャンパス工学部2号館 6階 62B1
 HP:http://www.bntl.t.u-tokyo.ac.jp/

Prologue

 生命科学においてこれまでの研究では、細胞一つ一つを扱うのは容易ではないため、細胞集団を対象とした実験・観察が主流であった。また、個々の細胞を観察することはできても、個別に操作・刺激・応答計測をすることは難しかった。しかし近年、微細加工・微細操作技術の進歩に伴い、1細胞・1分子レベルの実験が可能となってきている。小穴研では、 高機能細胞創出1細胞解析技術開発を主なテーマに、高収率な細胞操作技術によって細胞機能を改変する研究のほか、細胞を取り扱う技術そのものの研究も進めている。

 マイクロ・ナノメートル単位のものづくりで細胞や組織を取り扱う 新たなバイオテクノロジー は、工学的な側面と生物学的な側面を併せ持つ。細胞も1つの機械システムであるので、顕微鏡と動かす手段があれば、機械のように分解し、個々の部品(タンパクや核酸などの生体高分子)について詳しく調べることを通じて、その 動作原理(生命現象)を理解していくことができる。また、新たな機能性部品を組み込むことで、 新たな機能を持った細胞を作り出すことも可能である。

研究室には生物系の設備が多い(左上)。細胞を培養する装置も(右上)。
いたるところに顕微鏡がある。映像がモニターに写るものも多い(下)。

Interview with Dr. Oana

ご自身の研究の概要をお教え下さい。

 分類としては、バイオMEMSあるいはバイオナノテクノロジーになると思います。その中でも、 1細胞解析を主に行っています。1細胞解析とは、細胞の集まった組織ではなく、細胞そのものを1つずつ扱う研究分野のことです。細胞を扱うための小さなデバイスを作り、それを顕微鏡上に置いて、細胞を入れて操作します。これによって、例えば細胞の中身を調べることができると、 生命科学の知見獲得に貢献できます。生命現象の理解が進むことで、 医療方面にも役立ちます。そして細胞の機能を改変できれば、人間の生活に役立つ物質・材料などを細胞に作らせるという応用も可能です。

 解析に使用する細胞も自分たちで培養しています。必要な細胞を選別して増やしたり、細胞に入れる染色体を調整するなどの操作も、自分たちで行っています。そのため、設備を一見すると生物学系の研究室のように見えます。

 研究はどれもそうですが、今まで誰も作ったことのない装置を作り、誰も見たことのない現象を観察し、それが 新しい発見につながったり、非常に魅力的です。

実験をするデバイスを自作しているのですよね。

 デバイスを作る研究と、使う研究とを、この研究室では同時に行っています。1細胞分析をするためには 専用のデバイスが必要です。デバイスの内部には、個々の細胞を隔離する小部屋や、細胞を分解するための突起、細胞の中身を移動するための狭い通路などを作ります。全て マイクロ・ナノメートルの範囲の作業です。

 こうした微細構造を持つデバイスは、紫外線に感光する素材を用い、 紫外線露光することで作っています。このため、設備周辺を紫外線をカットするフィルムで覆う、 イエロールームと言う部屋を設置しています。また、ゴミやホコリが入りにくいように、イエロールームの内部は陽圧(大気圧よりも高い気圧)になっています。

 イエロールーム内で作ったデバイスはそのまま実験に使います。実験の用途に合わせて、様々なタイプのマイクロ・ナノデバイスが必要になります。そのため、その都度 自分たちでデバイスを設計し、作製するところから行っています。

イエロールーム内で実験をする矢崎さん(修士2年)と、指導する小穴准教授。

具体的に実験方法を教えて下さい。

 デバイスには、液体を流すための細い隙間「流路」を作ります。そこから細胞を流し込み、 光ピンセットを使って細胞を移動させます。それぞれのデバイスには実験のための様々な工夫がされています。 細胞を分解して中身を取り出して解析する、細胞の融合を行う、外来の物質を細胞へ導入するなどの操作は、 流路の形状と流れ場・電磁場(光ピンセットや電場)制御によって実現しています。

実際に作られたマイクロ流路の顕微鏡写真。色の暗い部分が流路。細胞1つ1つを入れる三角形の「ポケット」や、染色体を引っかけるための突起が見える。

 上の写真に写っているデバイスは、去年修士課程2年生だった方が作ったものです。細胞の中から染色体を取り出し、部分的に解きほぐして伸展させることで 染色体の高次構造を調べるためのものです。流路上に作った「ポケット」内で、細胞から染色体を取り出し、取り出した染色体を流路内の突起に引っかけて伸ばすことができます。これによって染色体の高次構造を調べることができます。

研究室として、将来的に何を目指していきたいですか。

 最近 「細胞医療」というのが出てきています。これは医薬品ではなく細胞を使った医療のことで、例えば、 がんの免疫治療に役立てられます。我々の研究しているデバイスも、治療に使う細胞を作るという面で、この研究に役立てられると思います。すぐには役に立つ細胞を作れないかもしれませんが、数年のうちには、少なくともお医者さんと一緒に試験的に(マイクロ流路を)使う段階には持っていきたいと考えています。

研究の体制は、コロナ禍でどのように変化しましたか。

 最近ではかなり規制が緩和されてきて、元通りの研究生活をしています。ただ、コロナ禍になった時にSlackやZoomなどの オンラインツールをよく使うようになりました。それが便利だったので、最近も使い続けています。また、実験装置の使用方法の説明について、動画を撮っておいてオンデマンドで確認できるようになったので、 新人教育の省力化が進みました。

今年の五月祭テーマ『汽祭域』に関連して、この研究室で「分野を超越」している部分を教えて下さい。

 この研究室は、機械工学の周縁部、「裾野」にあたる場所だと思います。デバイスを作る部分は機械工学ですが、マイクロデバイスに様々な材料を使いますから、 化学系の知見が必要とされます。また、やはり細胞を扱っているので、 生物系の人からも助言を多くもらっています。その意味で、 ほぼ全ての部分で「分野を超えて」いると言ってよいと思います。

いま、学部1・2年生は対面とオンラインの”ハイブリッド”で学生生活を送っています。そんな1・2年生に向けてメッセージをお願いします。

 機械工学というのは非常に「裾野」が広くて、色々なことをできるチャンスが多くあるので、ぜひ機械工学に来ていただき、今までにない新しいことを一緒にできたらいいなと考えています。

終始笑顔で対応して下さった小穴先生(手前)と、色々と説明して下さった矢崎さん(奥)

Voices of students

修士課程2年の矢崎祐磨さんに、小穴研についてお話を伺いました。

小穴先生(右)と楽しそうに話す矢崎さん(左)

研究室の雰囲気はどんな感じですか。

 比較的自由な雰囲気です。個人個人がテーマを持って、自分のペースで進めるような研究室です。とは言っても、テーマの近い人や、時に遠い人ともミーティングの場を設けて、意見交換をすることもあります。

取材時も、細胞の培養をする別の学生さんの姿があった

1日の研究スケジュールはどのようになっていますか。

 実験のある日は、午前中に授業を受けて、午後に研究室に来ます。実験の準備が大変なので、3時-4時くらいまでかかることもあります。その後は、長くかかる時で21時-22時くらいまで実験して、家に帰るといった感じです。5月に学会があるので、現在(取材は4月13日)はその準備をしています。

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研究室生活におけるある日のスケジュール

将来の進路は?

 現在、メーカーの 技術職を志望して、就職活動をしています。周りの先輩たちも、比較的メーカーに就職する人たちが多いようです。この研究室は生物学的なことに多く取り組んでいますが、 分野に拘らずに、技術・開発職に進む人が多いように見受けられます。

この研究室に興味のある学生へメッセージ

 この研究室は、生物系の分野を機械系の知見を活かして進めるような研究室なので、元々機械系だったような学生は 新しく学ぶことが多いので大変です。しかし、生物系の研究対象に対して、例えば機械工学演習など、 機械科で学んだ考え方が活きることも多くあります。

 機械系のアイディアを生物系に取り入れることで、学部だけでなく修士でも、 面白いアイディアを形にできることがあると思います。

Epilogue

 先生と学生との距離が近いように感じられた小穴研。一見すると生物系の研究室のようだが、メインは マイクロ・ナノデバイスの製作であり、確かに機械工学。微細加工技術の最先端にあって、ただ加工するだけでなく、それをその場で使っている、そんな研究室だった。今回の五月祭テーマは「汽祭域」だが、この研究室は汽水どころではなく、機械工学、物理化学、生物学など極めて幅広い学問領域にまたがっている。さらに、各々が独自のテーマを持って研究していることで、その領域はさらに広くなる。 マイクロ流路の研究と、それを使った 高機能細胞創出1細胞解析を基調としつつも、こういった非常に広い分野の知見が混ざり合う小穴研。分野の渦の中に、未来の高機能細胞がまさに生まれようとしている。◆

取材日:2022年4月13日
インタビュー・文責:小宮晨一
撮影・サポート:渡邊航太、浦鉄将

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