Lab Data
名称:東京大学大学院 工学系研究科 機械工学専攻 泉・波田野研究室
PI:泉 聡志 (機械工学専攻 教授)
所在地:本郷キャンパス工学部2号館 63A3
HP:https://www.fml.t.u-tokyo.ac.jp/
名称:東京大学大学院 工学系研究科 機械工学専攻 泉・波田野研究室
PI:泉 聡志 (機械工学専攻 教授)
所在地:本郷キャンパス工学部2号館 63A3
HP:https://www.fml.t.u-tokyo.ac.jp/
日々我々が利用する鉄道のレールやスマートフォン、パソコンなどに利用される半導体にかかる「 力」、そしてその「力」による対象の 信頼性について解析、検証をこの泉・波田野研究室では行われている。そしてこの解析の範囲は述べたように、大きいものは重機、さらには建造物、鉄道のレール、小さいものでは人体の一部や半導体まで及びその解析、検証の目盛はキロからナノの範囲である。このような「 構造強度の信頼設計」は技術開発の強い味方であり、かつ無くてはならないものである。
これらの例のように高精度のシミュレーションによる解析、検証という観点は今や従来の技術はもとい新技術の具現化には欠かせないものである。泉・波田野研究室ではこの高精度のシミュレーションを幅広い範囲に及んで行なっている。
大きい物では発電所や鉄道、小さい物では原子レベルでの構造物の強度を調べています。また、 企業との共同研究 (産学連携=大学や研究機関等が持つ研究成果、技術やノウハウを民間企業が活用し、実用化や産業化へと結びつける仕組み)が主。また、その中でも主に2パターンのシミュレーションをしています。
一つ目は、 有限要素法( FEM、=解析対象を多くの微小な要素で構成される解析要素でモデル化する解析法、複雑な境界条件や解析対象の多様性への適合性に優れかなり普及している解析法の一つ)による解析。この有限要素法解析では例えば鉄道の分岐器の加速度、軸力、歪みを計測し、そのデータを基にモデリングして コンピュータによる解析をします。その時、用いるのが CAE(=Computer-Aided Engineering、コンピュータによって支援された製品の設計・製造や工程設計の事前検討などといったエンジニアリングツール)というもの。
そしてもう一つは、 分子動力学解析(MD=Molecular Dynamics、原子ならびに分子の物理的な動きのコンピュータシミュレーション手法)です。これは、例えば半導体の10mm未満の薄膜表面に生じる応力の計算やSi表面の酸化において、応力は小さく欠陥は少なくなるような加工法を目指し分析を行なっています。また、有限要素法とこの分子動力学法とでは、ほとんどの場合の計算は有限要素法で行いますが、 分子レベルになるとモデルが組み立てられなくなるため分子動力学法が必要になります。
また、同研究室の波田野 明日可 講師は主に 流体構造連成シミュレーションについて研究されております。これは、流体と構造を同時に調べる研究で生体内部での現象を調べることに応用できます。例えば、 弁膜症の発生メカニズムについてです。
今後の展望としては、若い世代に 新しい信頼性解析の分野を切り拓いていってほしいです。そもそもこの研究室の二大テーマの一方となっている「 分子動力学解析」そのものが、私(泉先生)が学生の頃に興した学問であって。その意味で、例えば波田野先生の行っている流体構造連成シミュレーションなどは新しいです。また、それに関連して 人体の信頼性の研究が近年新たな信頼性解析の分野として切り拓かれています。自動車やスポーツ、例えば柔道やアメフトの事故において、身体に残る障害と残らない怪我を弁別するのは難しいですが、これが 機械工学的に解明できるようになる、というのが目指すべきことの一つです。
シミュレーションはVPN(=Virtual Private Network)で大学のPCに入れば家からでもできるので、研究体制としては ほとんど変わらなかったです。ただ、コンピュータが叩き出した結果の考察においては 議論が重要であるので、その点はオンライン環境ではなかなかうまくいかなかったです。そうすると、何が分からないのか分からなくなる学生も出てきたり。
あと、今ハイブリット生活を送る駒場生に送りたい言葉としては大学でできた 友人関係は、サークルや部活でできたものを含め、大切なものになるということ。社会人になってからはこのような「 友達」はできない(社会人になってできるのは「知り合い」であまり意見をぶつけ合って高めあう「友達」はできにくいという)。しかし大学の頃の友達はいつまでも「 友達」のままです。ただひたすら勉強ばかりしていては、大事なものを見失ってしまいます。大学の学習は実学で、経験や練習が重要となります。どうか教養の忙しさに絶望せず、後期課程に上がってきてください。そして、 仲間と一緒に物を作る経験は非常に貴重なものになるので、是非機械工学科に来てほしいと思います。
そもそも 「工学」は、産業革命後、蒸気機関車の時代から、発電、自動車の時代、そしてメカトロニクス、半導体の時代へと、様々な技術を取り入れながら動き続けてきました。このように元々は蒸気機械が主だった工学の扱う範囲は、次々に広がっています。このとき、新たに、他分野との交流があったというよりかは、 既存技術を扱っていたエンジニアがそのまま新技術を取り入れているケースが多いんだと思います。そういう意味では 「工学」の本質がみなさんのいう「異なる分野を超越する」ことであるとも感じられます。
この「異分野を超越する」ことの例として、新幹線は鉄道の歴史の中でも大きな転換点(超越という意味での)の一つ。このとき、例えばこの新幹線という設計分野に、航空系分野からは空力や制振の技術が、電気系分野からは軌道回路の技術が持ち込まれました。このように節目節目で、「枯れた」と思われた技術(もはや技術革新が見込まれないと思われていた技術)にも 大きな革新が見られるんです。また、節目以外の時にも、 小さな革新、みなさんいう「異分野からの超越」による革新は日々起きていて、すなわち様々な方面の技術が取り込まれています。
こうして新技術を扱ってくれる人がいるお陰で、日本は国際的な競争力で太刀打ちできていると思うんです。環境、DX、AI、現在流行りの半導体や電池など、流行り廃りは様々だが、その度に色々な知見が取り込まれ、成長してきたのが工学あるいは機械工学の分野です。技術革新が起こるたび、工学は様々な分野の知見を吸収して運用してきた。しかしそれを 「分野を超越した」とは言わないと私は思います。全てがまとまったもの、そのものを「工学」と呼ぶんだと思います。
修士課程1年の三浦友裕さんに、泉・波田野研についてお話を伺いました。
かなり学生同士の距離が近いです。学生同士の上下関係もあまりないですし、例えばみんなでお昼ご飯を買いに行ったりすることも多いです。あとは、わからないことは 気軽に相談しあったりも多いです。その時は研究についての話もしますし、研究には全く関係のないプライベートな話も。 学生と先生の距離も近いです。先生が学生の部屋によく訪ねてきてくださいますし、研究で行き詰ったところがあっても手を貸してくださいます。
他の特徴としては、 部屋が広いことですかね。研究がシミュレーションをメインで行なっていることもあり、 巨大な計算機を1つの部屋に置いてある他は実験装置がないからです。
あとは、時間の使い方も 自由なのも特徴です。というのも、シミュレーションの計算は全てコンピュータにやらせるため、 研究室にはり付いている必要がないからです。ですのでプライベートとの両立が比較的しやすいですね。
私自身、鉄道が好きでその研究がしたくてこの研究室を選びました。なので、将来的にも鉄道系の研究開発がしたいので、その方面で就職したいと思っています。 研究室内の人はほとんどの場合、修士から就職しますが今はまだドクターまで行くか悩んでいます。
信頼性に重点をおく研究室です。例えば同じシステムについてでも「より速い運転をするために」ではなく「更にトラブルを防止するために」という研究がメインになります。信頼性に興味のある人にぜひ来てほしいと思っています。ただし、単純に分野や扱うテーマに興味があるという人も歓迎です。色々なことをテーマに研究をしているので気になる人は、泉・波田野研で検索して見てください!
我々が日々利用するもののに対する圧倒的信頼性 を目指し、泉・波田野研究室は高精度な解析によりあらゆる設計を支えている。◆
取材日:2022年4月25日
インタビュー・文責:西村心
撮影・サポート:小宮晨一